Q6.経営者(代表者・社長)が会社破産とともに個人破産する際に、私生活について注意しておいた方がいいことはありますか?
A.所有している財産をどのようにするのか、売った方がよいのか、売らなくてもよいのか、売るとしたら、誰にどのような金額で売るべきか等、慎重な判断が必要です。
まず、馬券・宝くじ・株式投資・FX(為替)などの投機的行為や、風俗店や水商売店の利用など、浪費行為その他「免責不許可事由」に該当する行為は控えなければなりません。
また、細かいことではありますが、現在、毎月カード引落しになっている家賃・電気・ガス・水道・(携帯)電話・インターネット料金などは、特にカード支払いや銀行引き落としにしている場合、支払いストップや決済停止によって、混乱を生じることが多いです(ご相談者からもよく聞かれます)。
今後カード引落しされないように、銀行口座(奥様の口座などが便利なこともあります)からの引落しや請求書支払(コンビニ支払い)に変更しておく方がよいです。
否認権の問題
法人の破産の場合には,原則として管財事件となります。
管財事件となると,裁判所は破産管財人を選任して,破産会社の財産の管理処分を任せることになります(申立てを行う弁護士とは別の弁護士が、裁判所によって選任されます)。この破産管財人には「否認権」という権限があります。
否認権とは,簡単にいえば,破産手続開始前に処分してしまったものの,本来であれば破産財団に組み入れられるべき財産(=債権者に配当されるはずであった破産会社の財産)を取り戻すことができるという権限です。
法人・会社の破産,特に中小企業の自己破産において特に問題となるのが,この否認権の問題です。
中小企業の場合,仮に破産することになるとしても,できれば,個人的な付き合いのある取引先や親族等については返済をしておきたいと思うのが人情でしょう。
しかし,他の債権者には返済しないにもかかわらず,そのような特定の債権者にだけ返済をしてしまうということは,債権者の平等を害する行為であり,否認権行使の対象となる場合があります。いわゆる「偏頗弁済(へんぱべんさい)」です。
このような,一部の債権者にだけ返済を先に済ませてから自己破産を申し立てるという事例は非常に多いですが,上記のとおり,債権者平等を害する行為であり,本来許されない行為ですから,裁判所も,このような偏頗弁済については,相当過敏で,かなり厳しい措置がとられる場合があります。
具体的にいえば,破産手続開始後,その偏頗弁済分を破産財団に組み入れるため,破産管財人がその債権者に返還を請求し,場合によっては訴訟を提起するようなことになり,かえってその債権者に迷惑をかけることになるおそれがあります。
どのような場合が否認権の対象となるのかは、破産法上明記されています。
不測の事態を生じさせないためにも、返済に先だって、弁護士によく相談して返済の是非を判断する必要があります。
事業用資産の処分
法人・会社の破産の場合,個人破産の場合と異なり,財産は「すべて処分」が大原則です。個人に認められているような「自由財産」(例:99万円以下の現金の保有)は認められません。つまり,法人・会社名義の財産は原則としてすべて換価処分し,それによって得た金銭を債権者に配当する必要があります。
仮に,換価処分できない財産(無価値または処分費用の方がかかってしまうような財産)があった場合には,代わりに破産会社(現実的には社長)において、費用を捻出することを求められるようなこともあります。
破産者のおさめる予納金で処分しなければならないという場合があります。つまり,追加予納が必要となる可能性もあるのです。
義務という意味でも、例えば、賃貸している事務所の退去などは、「借り手側で行うこと」と通常されているでしょうから、借り手側(最終的には社長)の責任で行うことになります。
また,事業用資産を,破産手続開始前に,無料または廉価で,役員や第三者に譲渡してしまうというケースがありますが,これも債権者を害する行為ということで,前記の否認権行使の対象となるおそれがありますので,注意が必要です。
ちなみに,売掛金も「債権」という財産になりますから,回収が必要となってきます。ある売掛先は個人的な関係があるので回収はしたくない,という人情的な理由があるとしても,これを回収しないということは許されません。内容証明や訴訟提起といった方法が取られることも多く、「苦情」が社長側に寄せられることもあります。取り立てがされる場合でも、予期しているかでも気持ちは変わります。最低限、事前にアナウンスしておくなど、配慮が望ましいです。
労働・雇用関係の整理
法人・会社など事業者破産において,大きな問題に発展しがちなのは,やはり労働雇用の問題,すなわち,従業員との法律関係です。
従業員にしてみれば,勤務先がなくなるのですから,黙っていられるわけもありません。そのため,非常に強い反発が生ずる可能性があります。
この雇用関係に基づく賃金は,他の債権に優先して配当がなされることとされていますが,必ずしも配当できるかどうかは分からないので,自己破産をする場合には,従業員に対しても誠意をもって説明しておく必要があります。
そして,その上で,個々の状況によっては,自己破産の申立て前に,従業員を解雇しておく必要があるでしょう。
なお,従業員を解雇する場合には,賃金だけでなく,退職金を支払い旨の労働条件を設定指定ならば退職金,また,即時解雇等であれば解雇予告手当などについても注意を払っておく必要があります。
ただし,あまりに早く従業員に自己破産することを告げてしまうと,そこから他の債権者に情報が洩れてしまうという可能性もありますので,安易に自己破産の予定や債務超過となっていることを伝えるのは避けるべきでしょう。
ちなみに、給料の未払いがある場合、一部について立替払いを受けることができる場合がありますので、できれば、そのような方法もあることも知らせておくべきです。
代表者・役員の報酬
前記のとおり,法人・会社の自己破産においては,労働者に対する賃金等は優先的な債権とされています。これに対して,代表者や会社役員・取締役に対する報酬は,労働者の賃金と異なり優先的な債権とはされていません。
したがって,法人・会社がすでに支払停止の状況に陥ってしまった後に,代表者や取締役に対して報酬を支払うことは,原則として許されません。
仮に,支払をしてしまった場合には,前記の否認権行使の対象となる可能性がありますので,これも注意が必要でしょう。
代表者等の自己破産等
中小企業が金融機関等から借入れ等をする場合,その企業の代表者や役員が連帯保証人となるのが一般的です。
そうすると,仮に法人・会社のみが自己破産したとしても,連帯保証人である代表者や役員等まで支払義務を免れるわけではありませんから,その代表者等が法人・会社の負債の支払義務を負担しなければならないということになります。
そのため,法人・会社が自己破産をする場合には,代表者や役員等も,その会社と一緒に自己破産を申し立てることがほとんどです。
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