倒産に際して社長が知っておくべき10箇条

1始めに

社長様、倒産がちらつき、お悩みではございませんか。

会社や事業は生き物で、バイオリズムがあります。

人生と同じく会社(事業)にも誕生から消滅があり、経済的にはライフサイクル(導入期~成長期~成熟期~転換期~安定期)があります。いいときもあれば、窮地に立たされるときも、そして、会社を倒産させるべき時も、実際はあります。

私は、平成17年に東京で弁護士登録をしてから10年以上、企業法務、倒産処理にあたり、社長様、ご家族様の様々なお悩みをお伺いして参りました。

会社の負債処理というテーマは、会社経営上、間違いなく最大級ともいうべきストレスだと思いますが、事業不振となったときに会社社長には様々な不安がよぎります。

さて、いよいよ「倒産」の文字が頭によぎったとき、さまざまな不安がよぎります。

その中で、多くの誤解、偏見をお持ちの社長様が少なくありません。

それもそのはずで、会社がいよいよ資金繰りに困った時や会社が経営危機に瀕した際にどうすれば良いのか、ということに関して正しい知識をお持ちの経営者は少ないのが実情ですし、また、仮に、正しい知識をお持ちでも、いざ自身の会社の危機にあってはなかなか冷静な判断ができないケースも多く見受けられます。

会社を我が子のよう思っている熱心な経営者ほど、更に無理な借入をし、さらには個人資産を投入し、さらには「個人名義」で資金投入や借り入れをし、はては「家族名義」の資金投入や借り入れをしてでも返済を続ける、といったことを選んでしまい、それが後々逆効果になってしまうケースも多々ございます。

実際お話を聞けば、「こうですよ」、「こうすれば問題ありませんよ」ということがほとんど(ほぼすべて)なのですが、誤解・偏見から脱却できず、ストレスをお抱えになり、いわば、誤解という見えない敵と戦っている場合が少なくありません。

このような誤解・偏見は百害あって一利なしです。

事業を残すにしても精算するにしても誤解を解いて正しい認識のもと決断しましょう。

見えない敵と戦うのはやめて正しい認識の下後悔のない適正な判断をしましょう。

以下では私共が10年以上の実務経験から事業不振に喘ぐ経営者からお伺いする質問を選りすぐって回答させていただきます。

どうぞご参考になさってください。

2倒産に際して社長が知っておくべき10箇条

(1)自宅を守れますか

一口に倒産といっても、会社の破産と個人(会社社長)の破産手続きとは別個のものです。

そもそも、自宅が誰の名義かによっても対処が異なります。

ア 法人名義

自宅が法人名義の場合、法人の破産(精算)とともに、売却等がされるのが通常です。

イ 家族名義

家族名義の場合で、家族に特に債務がない場合(連帯保証等をしていない場合)、法人が破産しても、通常、家族の財産への影響はございませんので、特に変化はなく、そのまま住み続けることができます(ただし、「財産隠し」と言われるような場合は、別途の検討が必要です)。

ウ 社長名義

中小企業の場合、会社が金融機関から借り入れをするような場合、社長も連帯保証をするのが通常です(信用保証協会などを使っていても同様です)。

したがって、通常ですと、会社の倒産とともに、社長についても債務の処理をする必要があります。
しかし、以下のようなケースもありますので、皆が皆、自宅を手放さなければならないわけでは決してございません

(ア)代表者-個人再生(住宅特別条項付)のパターン

例えば会社はやむなく破産するとしても代表者が必ずしても破産手続きを取らなければならないわけではありません。
会社を破産させる場合でも、代表者は「住宅特別条項付個人再生」をとれば自宅を残すことは不可能ではありません。
しかし、会社の借入は多額となることが多く、保証債務も莫大になることが通常です。ですからこのパターンを取りうるには最低限でも次の条件を充足することが必要です。①保証債務額+代表者個人の負債を1/5にした額を36~60回(再生計画による返済期間3~5年)程度で返済できるかどうか(住宅ローンの返済は別途返済する条件として)、②上記返済原資となりうるべく収入が安定して望めるか(上記条件以外にも代表者が有する資産の清算価値の問題などありますが少なくとも上記条件を充足する必要があります)。

(イ)代表者-任意整理のパターン

他にも代表者の保証債務及び自分の負債を任意整理により分割払いすれば自宅を残すことができます。

以前は、代表者の任意整理は困難な場合が少なくありませんでしたが、昨今は、経営者保証GLという指針・制度が平成26年2月から施行されています。

会社を再生、清算する場合のどちらであっても、また、会社を法的整理(破産、民事再生等)、任意整理(再生支援協議会の利用、特定調停など)の場合でも利用でき、その場合、自由財産の拡張(現金99万円+アルファ)の他、インセンティブ資産として、「華美でない自宅」を残すことができる場合があります。一例としては、500坪程度の敷地面積であった場合や、処分価格が1000万円を超えるような場合でも、「華美でない」とされるようなケースもあります。

住宅ローンがついている場合でも、従前どおり支払いを継続して、居住し続けられることも少なくありません。

(ウ)自宅のリースバック他

破産者の自宅について競売を必ずしないといけないわけではありません。

手放すにしても、親族に適正価格で買い取ってもらうケースもあります。

第三者が買い受ける場合でも、集合住宅の場合等の場合に、賃借を受ける(リースバック)ことで条件が折り合うようなケースもあります。

また、買い手がつかずに結局そのまま名義が変わらないようなケースもあります。

このように、自宅の取り扱いは様々なケースがあるので、まずは専門家に相談すべきなのです。

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(2)車を残せますか

ア 会社名義で購入した車の場合

会社の破産手続を通じて現金化され、債権者への配当に充てられるのが通常の扱いですので、手元に残すことはできません。

ただ、破産手続が始まる前に「適正価格」で会社から買い取ったり、手続開始後に破産管財人から買い取ったりすることで、手元に残せる可能性はあります。

また、「適正価格」で親族に買い取ってもらうようなケースも少なくありません。
破産手続は、適正価格で処分・換価することが非常に重要な観点ですので、逆に、「適正価格」の元、しかるべき手続き行えば、むやみやたらに第三者に売り飛ばされるばかりではないのです。

イ 次に、会社がリース契約により車を調達している場合は、リース会社が車を回収しますので、通常、車を残すことはできません。その場合でも、場合によっては「回収時期」の交渉ができる場合はあります。

ウ そして、社長が個人名義で所有している車は、ローンが残っているか、現在の価値はいくらかといった点で扱いが変わります。高額な車両でなければ自由財産として自動車を残すことが可能です。

エ 以上の判断には、破産手続に関する専門的な知識と経験が必要になってきますので、一度弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

(3)債権者から追われませんか

弁護士にご依頼いただいた場合、まず、受任通知という書面を各債権者宛に送付することになります。

受任通知には、これから債務の処理を進めていくこと、弁護士が窓口になるとともに、「債務者に直接連絡・取り立てをしないでください」という内容も記載します。

そして、一般的な貸金業者や債権回収業者は、上記の受任通知を受け取った場合には、法律上、債務者に対する直接の連絡や取り立てができなくなります(貸金業法21条、債権管理回収業に関する特別措置法18条)。

その他の債権者でも、通常は、受任通知を受け取った場合には、債務者に対する直接の連絡や取り立ては止まりますし、経験上、数日のうちに連絡や取り立てが止まることがほとんどです。

過剰な連絡が重なるような場合は、弁護士が「警察に相談する」というようなことを伝え、沈静化することもありますが、きわめて例外で、つまりは、「債権者から追われることはない」といえます。

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(4)債権者集会の内容はどのようなものですか

まず、管財事件として破産手続きを申し立てた場合、管財人は財産を調査し、換価、配当するという手続を開始します。たとえば東京地裁の場合、法人破産の場合、申立から約3か月後の日程で債権者集会が設定され、各債権者に書面で告知されます。

債権者集会の状況債権者集会では、もちろん代理人の弁護士も出席しますが、法律上、破産者本人も出席しなければなりません。

ただし、ほとんどの債権者は集会に来ません。特に、大手の債権者会社などは、裁判所が手続にそって淡々と進めていくことを知っているので、出席をすることは珍しいといえます。

まれに、取引先や個人的な借入先などが出席することもありますが、裁判所という公的な場所でもあり、紛糾することは特になく、穏やかに進みますので、ご安心ください。

(5)管財人は何をするのですか

破産手続が始まると、破産管財人が選任されます。

破産管財人は、①資産の調査、②債務の調査、(個人の場合)③免責の調査が主たる業務です。なるべく多くの財産を換価、配当することを業とします。

そのため、会社の財産の流れに不透明な部分があれば、管財人は代表者に対して、当該部分に関する説明や、資料の提出を求めることとなります。

また、調査の結果、会社からの不当な財産流出が発覚した場合には、管財人は、利益を享受した者に対して、不当に得た財産の返還を求めることとなります。

しかし、通常のケースでは、「換価しなくてよい財産」(99万円までの現金、総額20万円以下の預貯金、家財道具、衣服、通常の電化製品等、法律上、また、裁判所の運用がほぼ確立しています)に収まるケースも少なくなく、財産隠し等が特にないようなケーズでは、特に換価しないようなケースも多いです。

いずれにせよ、管財人とのやり取りにも弁護士がフォローに入りますので、過度な緊張、不安は無用と言えます。

(6)子供や親族が事業を継げますか

法人破産すると、その法人格は消滅することになるので、その後にその法人として事業を行っていくことはできません。

もっとも、新会社を立ち上げて、子供や親族等が代表者となって新会社(第二会社)を立ち上げることは可能です。また、事業譲渡や会社分割などの方法が用いられることもあります。

ただし、契約関係を実際上引き継ぐようなケースでは、場合によっては、それ自体が資産として評価されることから、対価なしにまたは不当に安価で新会社に引き継いだ場合、新会社は、管財人かその契約の価値に見合った金額の請求や訴訟をされることになりかねませんので、破産手続の脱法手段と言われないように、合理的かつ細心の注意を払った上で、事業承継を行う必要があります。

(7)仕事をしてもいいのですか(年金はもらえますか、生活保護はどうですか)

もちろん、仕事をすることができます。

むしろ、事業の精算は「リスタート」のために行うといって過言ではございません。

並行して生計を安定させ、日々の生活費(や老後の資金等)を確保していきましょう。

なお、就職活動の際には、破産の事実を伝える必要はなく、履歴書や経歴書等にも記載する必要はありませんので、ご安心ください。

もっとも、破産を申立てて、裁判所により破産の開始決定がなされると、一部の職業や資格は制限を受けることとなり、それらの仕事に就くことができませんので注意が必要ですが、資格制限を受ける職業としては、弁理士、税理士、宅地建物取引士、貸金業者、旅行業者、卸売業者、宅地建物取引業、警備員等があり、これらはほんの一例ですし、これらの仕事に一生就けなくなるというわけではありません。基本的には、破産手続きが開始し、いわゆる免責許可決定が確定するまでの一時的な期間にすぎません(これを「復権」といいます)。つまり、破産手続き期間中は、法律上は「破産者」という扱いになりますが、破産の手続きが終われば、法律上の扱いが「破産者」ではなくなり、元の一般人の状態に戻ります。具体的に、資格制限を受けるのは、通常通り手続きが進めば、だいたい3~6ヶ月程度とみておけば足りるでしょう。前述した資格制限を受ける職業は、ほんの一例ですので、どのような職業が制限を受けるのか知りたいという方は、一度弁護士にご相談ください。

また、年金も問題なくもらえます。

破産開始決定後に発生する年金受給権は、新得財産として受給することができます。

自然人の破産手続開始決定後に、破産者が取得した財産のことを、「破産財団」と区別して「新得財産」といいます。

新得財産は自由財産なので、破産者は、新得財産については破産手続きに関わらず、自由に使うことができますし、破産開始決定時に存在する年金受給権は、「差し押さえることができない財産」ですので、破産財団に帰属せず受給することができます(破産法34条3項2号)。

ちなみに、生活保護を受けることも、生活保護受給の要件を満たせば可能です。

破産手続と生活保護は全くの別物であるため、破産手続きをしたので生活保護を受けることは出来ない、ということはありません。

もちろん生活保護を受けるには要件がありますが、破産手続きをしたことで要件を欠くことにはあたりません。

なお、生活保護を受けてから破産手続きを行うことも可能です。

法人及び代表者の破産手続きにより、今後の収入には不安が大きいかと思います。

その際には、生活保護の手続きを含め、一度弁護士に相談されてはいかがでしょうか。

(8)家族の財産はどうなりますか

ご家族が、(連帯・物上)保証人になられていない限り、会社の負債の支払義務が発生することはありません。したがって、ご家族の財産が取られることもありません。

(9)従業員がいるのですがどうすればよいですか

従業員には退社してもらう必要があります(解雇も基本的に有効となります)。

また未払い賃金がある場合には、一定の条件のもと、労働者福祉機構により賃金立替払い制度を利用することで労働者へ賃金が立替払いされます。

(10)破産すると第三者にわかりますか

基本的に第三者に知られる可能性は、きわめて低いと考えられます。

可能性があるとすれば、主に以下の点が挙げられます。しかしながら、ご事情によって異なってきますので、一度、当事務所へご相談ください。

ア 会社の登記簿謄本

登記簿謄本は、法務局へ請求すれば、誰でも取得することができます。会社が裁判所から破産手続開始決定を受けると、会社の登記簿に「会社が破産したこと」の登記がされます。

イ 官報に掲載

官報は、政府が毎日刊行する新聞で、官報販売所で購入することやインターネットで閲覧することができます。官報には膨大な人数の情報が掲載されます。したがって、金融機関等を除き、一般の方が閲読して特定人の情報を得るということは、まず考えられません。

ウ 信用情報

破産をすると、信用情報機関に事故情報が登録されるため(7年~10年)、その間、住宅ローンや自動車ローンを組むことができず、また、クレジットカードを持つこともできません。そのため、ローンを組まないといけない状況が出てきた場合には、自己破産したことを知られる可能性がありますが、一般の方が知るわけではありません。

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