弁護士が教えるアパレル業・メーカーの倒産について

1.アパレルメーカーの破産の特殊性

アパレルメーカーには、仕入れ先、従業員、金融機関等の利害関係人が多数存在します。

アパレルメーカーに特有の利害関係人としては、百貨店や小売店等の業者です。

出荷済みの商品があり、まだ代金を受け取っていない場合には、売掛金が発生しているのが通常です。

また、最近では、ネット販売等で、海外の会社が関係することも少なくありません。

アパレルメーカーの申立準備段階では、この商品に関する売掛金を回収することがとても重要です。これは、破産手続をするには、申立代理人の費用や裁判所に納める予納金を確保する必要があり、十分に費用を確保できなければ、そもそも破産手続の申立をすることができなくなってしまうからです。

2.アパレルメーカーの商品に関する売掛金の特殊性

上記の売掛金の回収は、アパレルメーカーの経営が順調なときと比較すると、スムーズに行くとは限らないところに注意が必要です。

なぜなら、売掛金の回収を早期に行なうために、市場価格よりも安値で、かつ、在庫商品を大量に売却することで、商品価値が大幅に下がることが予想されること、商品の種類によっては、破産を行なうことでブランド価値が大きく低下し、それに伴い商品価値も大幅に減少することが起こり得ること、破産前は受けられていた品質保証や欠陥品との交換等に応じられなくなること、などの特殊性があるからです。

そのため、破産手続の準備中であるということが分かると、百貨店や小売店、ネットショップ等からは、契約の解除又は特約に基づく返品を主張されたり、委託販売であってそもそも売買契約が成立しておらず売掛金を支払う必要がないと主張されることがあります。このように、アパレルメーカーの百貨店や小売店等の業者に対する売掛金の回収は、破産手続の準備以後に困難になる可能性があることに特殊性があります。

3.申立段階でどのような点に注意をすべきか

前記のとおり、破産手続を検討していることが業者に知られてしまうと、百貨店や小売店等からは、契約の解除又は特約に基づく返品を主張されたり、委託販売であってそもそも売買契約が成立しておらず売掛金を支払う必要がないと主張され、売掛金の回収が困難になることが予想されます。そのため、破産手続の準備段階では、できる限り破産手続を行なうことを外部に漏らさないことに注意を払い、早急に従前どおりの価格での売掛金の回収に努めることが重要です。

Q アパレルメーカーが破産手続を行なうことが外部に漏れてしまった場合はどのように対応したら良いでしょうか。

この場合、百貨店等の返品や売買の不成立の主張が行なわれ、売掛金の支払が受けられなくなり、代わりに商品が戻ってくることもありえます。しかし、そもそも、事業所や倉庫を閉鎖することで、商品を置く場所がなかったり、大量にある商品の販売をする人手がなくなったり、また仮に商品を置く場所や販売をするための人員に問題がなかったとしても、これを従前のような価格で、他の業者に早期に売却することは相当の困難が予想されます。

そのため、アパレルメーカーとしては、百貨店等の主張に従うのではなく、その主張に合理的な理由があるかどうかを精査する必要があります。精査をするにあたっては、取引基本契約やその他の契約書類や納品書等をもとに、百貨店等の主張するような約定になっているかを確認したり、百貨店等に特約が存在すると主張する根拠を示させたりするべきです。 委託販売の主張については、契約書・伝票等の資料等からその成否が判断することになります。

Q 契約書・伝票等に明確に記載されていなくても、アパレルメーカーと百貨店等との取引において、百貨店が売れ残った商品の返品を求めた場合、メーカーはこれを引き受けるという商慣習が存在するのだから、今回もその商慣習に従って返品をするとの主張がなされた場合は、どのように対応すべきでしょうか。

この場合、通常時において、商慣習があるといえても、それがアパレルメーカーの破産時にまで通用する商慣習でないとの反論をすることで、売掛金の支払を求めることを検討すべきです。

なぜなら、これは返品された商品に代えて百貨店が新たに別の売れ筋商品を仕入れるといった取引の継続を前提として双方にメリットがあるために成立している商慣習にすぎず、取引の継続を前提としていない破産準備段階では、上記商慣習の存在を主張して、商品の返却をして、百貨店等が売掛金の支払を拒むことはできないと言えるためです。

Q 契約上売買契約の解除や返品の特約の存在が認められる場合は、どのように対応すべきでしょうか。

この場合も、アパレルメーカーとしては、売掛金の回収をする余地がないとはいえません。返品の特約については、場合によっては独占禁止法上の不公正な取引方法に該当するとして、特約は無効であると主張することで、商品の返品を断念させ、売掛金の回収をすることができる可能性があります。

また、この点について、取引基本契約において倒産時における契約の解除特約がある場合、これは売主の倒産による買主に生じる商品の値崩れの損を売主に転嫁する目的で締結されたものであるとし、解除特約を無効であると判断した裁判例があります。 これは、事例判断に過ぎませんが、この判決の論理は、解除と同様の結果となる返品の特約にも妥当しますので、倒産をする場合に契約の解除や返品の特約の存在自体が認められる場合であっても、アパレルメーカーとしては、特約は無効であるとして、商品の返品を拒絶し、売掛金の回収を図るということも考えられます。

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