私的再建(再生型私的整理)とは
1 私的再建(再生型私的整理)とは
私的再建(再生型私的整理)とは、(一般的には)金融機関のみを対象に「裁判外で」交渉して再建を図る手法です。
私的再建(私的整理)では、民事再生のように一般の債権者(仕入先、従業員等)を倒産手続に巻き込みませんので、関係者からの協力や取引関係を維持しつつ会社の再建を目指すことが可能です。また、どのようなスキームで再建を目指すかについて法律上の決まりはありません。そのため、関係者らの理解を得つつ、柔軟な再建計画を立案、実行することが可能です。
2 私的再建(再生型私的整理)のメリット
○民事再生のデメリット
民事再生には、法定多数の同意により再生計画が成立するなどメリットも大きいのですが、残念ながら大きなデメリットもあります。
まず、「債権者平等」という倒産法制の基本理念によって、取引業者の債権者も対象となってしまうことです(民事再生法85条1項により商取引債権も弁済禁止の対象となります。)。少額債権者など一部の例外はありますが、原則として、商取引債権者の債権も弁済禁止及び債権カットの対象とせざるを得ません。
次に、民事再生を申立てした場合には、新聞、テレビ等により、取引先や顧客に対して、倒産の事実が広く知れ渡ることになってしまうことがあげられます。
その結果、取引業者が離れてしまうなど事業価値の毀損が生じることがあります。
○私的再建(私的整理)のメリット
(1)債務者会社にとってのメリット
私的再建(私的整理)のメリットは、上記の法的再建のデメリットを回避することが可能になることです。
第一に、「対象債権者を限定」できます。私的再建は、倒産法制に必ずしも縛られませんので、商取引債権者を対象とすることなく、金融機関のみを対象として、交渉をすることが可能です。取引の継続拒絶や取引条件変更、風評被害等を回避しやすいと言えますので、事業価値の棄損が生じにくいのです。ひいては、金融機関に対しても、弁済額を増やすことが可能となるわけです。
第二に、「銀行秘密」があることです。金融機関にはいわゆる「銀行秘密」があると言われています。「銀行秘密」とは取引会社の様々な情報を第三者に開示してはいけないということです。そこで、会社が窮境に陥ったことは、原則として、取引先や顧客には知られません。誰にも知られないからこそ、事業価値の毀損が生じないと言えるのです。
第三に、「金融機関との信頼関係」を維持しやすく、事業継続の支援が受けやすい点です。
民事再生など法的整理の場合には、金融機関とは緊張関係が生じているケースも少なくありません。そのため、民事再生会社が金融機関から融資を受けることは簡単ではありません(そのため、法的整理の場合には、自主再建で計画を作成する場合には、極めて堅く作成し、カット額も大きくなることが多いです。事案によっては、スポンサーが付くことが望ましいケースも相応にあります。)。これに対し、私的再建の場合には、金融機関との間で信頼関係が構築されていること、計画成立後もモニタリングを受けるなど、金融機関との関係は近いままであることが多いと言えます。金融機関としても一度支援した会社を破たんさせるわけにもいかないとの心理が働くこともありますので、資金繰りが厳しい場合には、追加の融資などの金融支援を受けられる可能性も出てきます。
第四に、「正常化を目指しやすい」点です。金融機関の理解を得る私的整理の場合、債務者区分が向上し、正常先になることが出来れば、将来的な追加融資等を期待することが出来ることもメリットでしょう。
(2)金融機関にとってのメリット
金融機関から見た場合、2つの観点から法的整理(民事再生)に対する抵抗感があると言われております。
第一に、私的整理の場合は債務者会社と金融機関が二人三脚で再生計画を立案することが多く(私的整理の場合は、原則として全債権者の同意が必要なため)、財務DDや事業計画は相応に緻密なものが要求されますし、きちんとした私的整理の場合、情報もタイムリーに多くのものが入ります。他方で、法的整理の場合は、金融機関は「債権者の一人」という立場になってしまい、債権者との接触機会も相対的に低下してしまうという問題があります。
第二に、法的整理の場合、自己査定における債務者区分は、申立直後は「破たん先」となってしまい、貸倒引当金を最大に積まなければならないということです。また、私的整理に比べ、経済合理性が低くなる傾向があります(民事再生の場合には、10年弁済という弁済期間の縛りもあります。)。
これに対し、私的整理できちんとした再生計画が立案されれば、債務者区分が向上する可能性が高いと言えます。たとえば再生支援協議会の場合、中小企業再生支援協議会事業実施基本要領というルールが定められており、①5年以内の債務超過解消、②3年以内の経常黒字化、③実質的な債務超過を解消する年度における有利子負債の対キャッシュフロー比率が10倍以下というルールがあります。かかる基準を満たす計画が立案できれば、債務者区分の上方遷移、たとえば破たん懸念先からその他要注意先にランクアップが出来ることとなり、引当金の戻り益が出るだけでなく、不良債権比率が改善することが可能となります。
3 私的再建(再生型私的整理)と民事再生(法的整理)の検討順序
以上のとおり、私的再建(私的整理)は、債務者側、債権者側双方に非常にメリットが高い手法と言えます。
その意味で、本来的に私的再建(私的整理)は、限りあるパイを奪い合うようなものではなく、会社側が自助努力をしながら、誠意をもって対応するものとなります。
近時は再生支援協議会など私的整理にも様々な準則(ルール)が出来ており、非常に使い勝手が良くなっており、金融機関の理解も進んでおりますし、民事再生のデメリット等を考慮すると、第一に検討するのは私的再建(私的整理)ということになります。
4 私的再建(再生型私的整理)の進め方
事業再生型私的整理(私的再建)を弁護士が受任した後のおおまかな流れについて整理しましたのでご参考になさってください。
具体的事情によっては、大きく変更することもありますが、一般的な流れとしてご理解ください。
簡易なリ・スケジュールの場合には、より簡易に終了することも多いと思われますが、他方で、粉飾をしていた会社、過剰債務があり債務免除(もしくは第二会社方式)が必要な会社、収益力が乏しく、返済原資が作れない会社の場合には、再生計画の立案に時間を要したり、金融調整に時間がかかることもあります。
【スケジュール概要】
受任(正式契約)
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↓ 資料準備、方向性確認(不動産鑑定)
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0~1ヶ月程度 キックオフミーティング(第1回バンクミーティング)この場では、元本の弁済猶予(元本残高の据え置き)の要請のほか、今後のスケジュール及び方向性の確認を取ります。
↓ 金融機関との信頼関係醸成のため、ケースによっては、説明会前に個別訪問
↓ 財務・事業デューディリジェンス(DD)を実施
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2~3か月 第2回BMTG・・・DD結果・事業計画(営業利益段階までの損益計画)の発表
↓ さまざまな論点についての整理・説明
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4~6か月 第3回BMTG・・・再生計画の発表
金融機関との合意獲得
【ご相談・打ち合わせ】
当事務所弁護士がご相談を受ける際には、概ね以下の事項の聞き取りをさせていただいています。
①ビジネスモデル、事業性(できれば大義名分)の確認
事業性の把握と窮境原因の把握も重要になります。過去実績や今後の取り組みを確認します。誰に、何を(商品、サービス、提供価値)、いくらで(価格、販売方法、体制)、どの程度(販売数量)販売しているのか、商流図を作成しながら、事業内容を聞き取ります。これにより、競争優位性(強み)、外部環境(競合の状況、業界トレンド、今後の機会)、内部環境(組織、人事・労務・組織)、会社が倒産した場合に生じるデメリットの確認(大義名分)、窮境原因の確認及びその除去可能性を見ていくことになります。
②BS、PL等決算状況を踏まえ、収益力の確認
可能な範囲で過去の収益力(概算)、過剰債務額(概算)、債務償還年数(概算)のあたりをつかんでおきます。
③銀行との取引状況や保全状況
銀行との取引状況(どこがメインかの確認)、これまでの融資を受けた経緯、支援状況、保全状況を確認します。
【事前準備:資金繰り表の作成・預金避難】
会社の預金(資金)は、事業継続に不可欠な血液(ガソリン)のようなものです。
そこで、資金繰りの管理は非常に重要です。弁護士に依頼した場合には、ほぼ間違いなく、資金繰り表の作成を求められることになります。