弁護士が教える印刷業の倒産について

印刷業における会社破産の特徴

① 現物資産が多い点

(1)現金化

 法人・会社の所有する物である限り,工具・機材・什器・備品などは,原則として、すべて換価処分の対象となります。

(2)担保・リース

 大型の機械などについては,譲渡担保が設定されている場合もあります。

 この場合には,換価処分した金銭から,その担保の被担保債権額が優先的に譲渡担保権者に弁済され,残余の金額が破産財団に組み入れられることになります(別除権)。

 また,リース物件である場合には,基本的には,所有権者が物件を引き上げて,それを売却することなどによって得た利益をリース料の残額から控除してもらうことになります。担保に入っているものや、リース物件を無断で譲渡したり、処分したりすると、トラブルを生みますので、権利関係の適切な把握が必要です。

(3)連帯保証

大型機械の購入代金やリース契約は、代表者などの連帯保証がついているケースも多いです(信販系などは特に)。これらの債務も小さくはなく、代表者個人の再生スキームに当たって、注意が必要です。

② 売掛金について

 売掛金・貸付金などの債権も,法人・会社の財産・資産です。

 したがって,破産財団に組み入れられることになります。印刷業の場合、小口であったり、単発で連絡が取れなくなってしまって、「未収金」として残っているケースもあります。あらためて代理人を通じて回収して、費用にあてたりするケースもあれば、回収は、裁判所の手続きに委ねることもあります(具体的には,破産管財人が,売掛金や貸付金等の債権を回収することになります)。

会社破産までの流れ

ア 大きな流れ

法人破産の大きな流れとしては、

①弁護士への相談

②弁護士の受任(債権者へ受任通知の発送)

③申立準備

④破産申立・破産開始決定

⑤終了(配当or異時廃止)・・・再スタート

という流れになります。

イ スケジュール

色々な事柄を処理しなければならないように思われるかもしれませんが、準備等は弁護士にてリードして行いますので、プレッシャーは無用です。

申立以前の①~③申立準備は、状況・処理すべき事項の量・所要時間によって大きく左右されますが、目安として「1カ月~3カ月」といったところでしょうか。

要する期間としては、「④申立~⑤終了まで」は、早ければ3か月程度です。

①~⑤終了まで、トータルでは4~6か月が標準です。

各段階で実施すること

①弁護士への相談

・弁護士と相談の上、状況を把握し、方針を決定していきます。ご状況にもよりますが、ご相談当日(もしくは2回目)に方針・方向性が定まる場合も少なくありません。

方針を弁護士が押し付けることはもちろん一切ございませんので、ご安心ください。

②弁護士から業者(債権者)に受任通知書を発送

弁護士が債権者に受任通知を送ることで、これまでの取立ては依頼者に来ることはなく、直接弁護士やりとり、交渉することになります(例外として税金や社会保険については、受任通知を送るとすぐに差し押さえ(滞納処分)を受ける可能性が高まる関係から、原則として受任通知は送らない運用となっています)。

③申立準備

・申立準備にあたっての検討事項は相当多岐にわたるケースもあります。

破産法のみならず、商取引、会社法、労働法、民事訴訟手続、民事執行手続、不動産、知的財産、廃棄物等、さまざまな問題が表面化するkととも少なくありませんが、私どもは、債務処理プロパーに留まらず、各分野の知識と経験を総動員して対処に当たります。

④裁判所へ申立

・破産の申立て手続をすることにより、破産手続は開始します。申立ては会社の所在地(又は代表者の住民票常時の住所)を管轄する地方裁判所が原則となります。

(本店所在地を管轄する地方裁判所が原則です。ただし、例えば、東京都内以外の本店所在地の会社であっても、所定の条件を満たす場合、東京地裁に申し立てることも可能なケースもあります)

・審査の上、裁判所により破産手続きの開始が決定されます。

同時に破産管財人が選任されます。破産管財人も弁護士が選任されますが、申立側弁護士とは役割、立場が異なり、より中立の立場から破産事務を取り扱うこととされています

・最終的には財産を可能な限り現金化し、配当を目指した準備が進められます。

⑤終了(配当or異時廃止)・・・再スタート

・破産管財人を通じて資産の換価・処分、負債調査などが終了した段階で、「破産財団」(*破産会社が保有している資産全体)が確定します。

破産財団が少額である場合、配当をせずに終了することとなります(いわゆる異時廃止)

・一定程度破産財団が形成された場合は、配当手続(債権者への弁済)となります。

*事案によって異なりますが、例えば、破産財団全体で40万円を下回るようなケースの場合は、概ね異時廃止となります。異時廃止により終了する事案も相当多数に上ります。

・異時廃止ないし配当手続によって、破産手続の終結が決定されます。

この決定により、会社は消滅することになります。

会社自体が消滅しますので、返済義務自体が消滅することとなります。

よく質問を受けますが、社長個人が肩代わりしなければならないわけでもございません。

正式に再スタートすることができます。といっても、手続きの進行と並行して、すでに再スタートを構築されている方も少なくありませんし、あくまで再スタートの手段・前提として破産手続きを選んでいる訳ですので、なるべく早く収入の確保等を進めることが望ましいといえます。

印刷業の破産に関する解決事例

任意売却により自宅を守れた事例

業種:印刷業

負債総額:6000万円

債権者数:20

ご依頼の背景

時流に乗った受注を取り付け、一時期は高い売り上げを誇っていたが、得意先からの受注削減、商流見直しによって、売り上げが激減し、受注を頼りに行ったばかりの大規模な設備投資が収支、キャッシュフローを圧迫した。

住宅ローンが残っていたが、適切な評価の元、信用不安が広がる前に資産譲渡を適切に行い、リースバックの形で、生活場所の確保に至った。その後、会社、個人は法的整理により健全化を行い、支払いに追われる日々から解放され、貯蓄もできるようになった。

弁護士の所感

小規模事業の場合、コストが少ない分、短期間に大きな役員報酬を受け取るに至るケースも多いのですが、他面で、収益悪化もまた社長一家を直撃します。好調な時に事業体制の構築や内部留保を固めて置ければ良いのですが、最終的には適切な手法でリスタートすべきことも多いです。

本件では、住宅ローンも残っていましたが、適切な価格、プロセスで、親族への譲渡、リースバックの形で、生活の拠点を変えることなく、リスタートすることができました。あとで債権者から指摘を受けることがないよう、綿密な段取りをとることの重要性は強調してもしすぎることはないくらいです。

取引先との関係構築によりスポンサーを確保し、事業棄損を最小限にし、再スタートを行った印刷業の事案

負債総額:約1億円

業績悪化理由:入札事業の利幅減、構造的不況

債権者数:30

ご依頼の背景

社歴の長い老舗で、入札においても優良なポジションを築いていた。アウトソースを活用したスリムな経営を行っていたが、次第に利幅も減少していき、キャッシュフローが悪化していたこと等が原因となった。

関係者も含めた債務処理に成功し、従前の経験を生かしたフィールドでの再スタート、再建となった。

弁護士の所感

印刷業においては、ファブレスの事業形態を採用する会社も少なくありません。本件では、取引先の優良さ・社歴といった点が強みであり、その点を中心に早期にスポンサーを確保できたことが、事業棄損を最小限にし、再スタートを行えたポイントだと思います。

弁護士が教える印刷業の倒産について関連する記事はこちら

企業の再生・破産に関するお悩み 無料相談受付中! 弁護士が親身に対応します。 TEL:03-3527-2908 受付時間 09:00〜17:30

メールでのご相談はこちら

民事再生・破産に関するご相談メニュー

  • リスケジューリング
  • 民事再生
  • 会社破産
  • 会社分割
  • 会社更生
  • 私的再建